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ままごとの新聞 第21号

ままごと、劇団員が増えます

文:柴幸男

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 最近、疑似家族の物語をよく見ます。血縁でも地縁でも、信仰でも経済的な結びつきでもない新しい家族が世界的に求められているように感じます。

 劇団はその新しい家族になり得るでしょうか。ままごとは活動を重ねていくうちに良くも悪くも家族的になっていきました。

 かつて、ままごとは演劇をとりあつかう会社を目指していたと思います。しかし僕たちはある段階で経済的な成長を手放しました。

 自分たちの演劇で世界を変革しようという劇団らしい野望もかつてはあったように思います。しかし、その野望は少しずつ薄れてきました。

 野望なき劇団は解散したほうがいいのではないか。そう考えたこともあります。しかし、ままごとだからできたことがあり、できることがまだある。だから、ままごとを続けるために、しかし漫然とは続けないために、ここで少し変化してみようと考えました。

 家族が変化する一番の方法は、新しい家族を迎え入れることだと思います。失ってしまった、今までになかった野望や感覚を持っている新しい家族を迎え入れることで、ままごとが変化し、新しい展開を迎えることを期待してみようと思ったのです。

 今回、小山薫子さんと石倉来輝さんにままごとはプロポーズをしました。お二人とも若く優れた俳優です。そして演劇とは何か、劇団とは何か、自分の演劇とは何かを、生活とともに試行錯誤できる人だと思います。

 その試行錯誤こそ重要だと考えました。現在のままごとにとって劇場公演はよそ行きの姿。本質は演劇的な生活にあります。滞在したり、移動したり、作り方や付き合い方を考えたり。今、僕たちは演劇作品そのものより演劇の形、演劇集団の形に興味があるのです。お二人ともそのことをよく知ってくれています。

 と、もっともらしく書きましたが、なんだかんだ最終的な決断は勘と偶然によってなされました。ままごとは今までも能力を理由に劇団員を選んだことはありません。今までもずっと僕たちは勘と偶然を大切にしてきました。もしかしたらそれが、ままごとが会社や劇団になれなかった理由なのかもしれません。しかしそれこそが、ままごとが今もままごととして存続できている理由なのかもしれません。とにもかくにも、お二人が加入してくれることをうれしく思います。というわけで。

 ままごと、劇団員が増えます。そして、ままごと、まだ続きます。

ままごとの新聞 第21号

駿府城公園を背景に展開
『ツアー』静岡公演レポート

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ままごとの久々の新作『ツアー』。
登場人物3人、上演時間約45分のコンパクトな作品で、
各地への “ツアー” を目指した本作は、
4月に神奈川・STスポットで初演され、5月に静岡の屋外で上演されました。
本号では、静岡公演の模様をレポートします。

 『ツアー』静岡公演は5月4日から6日の3日間。本公演は、静岡ストリートシアターフェス「ストレンジシード2018」の参加作品で、ままごとは駿府城公園を臨む静岡市役所の大階段前スペースで作品を展開しました。

 『ツアー』は、幼い子供を突然亡くし、車で一人旅に出た女が、道中で出会った異国人の女性やナビとのやり取りの中で、 “自分の旅” を見つける物語。劇中はドライブシーンが中心となっています。

 神奈川・STスポット公演では、俳優がトランクに腰掛けて、トランクのタイヤを使って移動することで “ドライブ感” を演出。屋外公演となった静岡では、1台の車を中心に車の “車内と天井” が、俳優たちの主な演技スペースとなりました。


初日はあいにくの強風

 初日である4日は、手で抑えていないと帽子が吹き飛ばされるほど強い風が吹いており、天気はいいのにどこか肌寒い日でした。会場を訪れたお客さんも、みんなぎゅっと身を寄せ合うように開演を待っていました。

 やがてナビ役の大石将弘が現れ、開演前のアナウンスをして車に乗り込むと、女役の小山薫子が登場。そして車内に乗り込む、かと思いきや大胆にも車の上に上がって、 “運転” の仕草を始めます。

 ゆったりした小山の衣装は風を受けて大きく膨らみ始め、(実際に車はまったく動いていないのに)まるで車のスピードがどんどん上がっているような印象を与えます。

 当てどもないドライブを続ける女ですが、目に入る物や言葉をきっかけに、一瞬にして過去のつらい記憶に囚われて悶絶し始めます。何かから逃れるように旅を続ける女は、ふと立ち寄ったドライブインで、端田新菜演じる外国人女性に出会い、仲間とはぐれた彼女を目的地まで送り届けることになり……。やがて片言の日本語でやり取りする彼女たちは、想像もしない偶然に巻き込まれることになるのでした。

 小山に続き車の天井に上がった端田の、赤い衣裳の裾が風にたなびき、宙に美しいラインを描き出します。二人の背景には、陽に照らされた駿府城公園の樹々がきらめき、衣裳の赤、車の白、樹々の緑、そして空の青さが視覚に優しく訴えかけます。

 その光 景を観ていると、彼 女たちが遭遇するさまざまな出来事-つらい記憶や驚愕の珍事もすべてが夢のように思え、肌を撫でる風ばかりがリアルに思えてくるのでした。

 やがて森の中で動けなくなった彼女たちは、テントを発見します。大階段の踊り場に設置されたテントまで駆け上がり、遠くを臨みながら語り合う女と異国人の女は、言葉を超えた何かを共有するのでした。


『ツアー』まだ続きます

 STスポット公演に比べると、車を中心に俳優たちの可動域はかなり広がって、特に小山と端田は、強風に煽られながらも、会場をめいっぱい動き回りました。大石は、そんな二人を車中から眺め、旅や自由に憧れるナビ役を、感情を抑えた演技で表現。ナビが時折見せる愛嬌ある言動に、会場からは笑いが起きていました。

 また演技スペースから車を一旦捌けさせるシーンでは、黒のつなぎを着込み、脇で待機していた制作の宮永琢生と加藤仲葉が、人力で車を動かす1幕も。強風で声が届きにくくなったり、小道具が飛ばされそうになったりと屋外ならではのアクシデントが多少あったけれど、柴幸男は自ら音響操作をしながら、時折笑顔を見せて、じっと本番の様子を見守っていました。

 ストーリーは同じなのに、ブラックボックスで観るのとはまた異なる余韻が残る、屋外版『ツアー』。上演する街や場所によってどんな作品に変化していくのか、これからの展開にもぜひご注目ください。

 なお本作の2018年後期のツアー予定が明らかに。10月上旬に新潟、10月中旬に香川・小豆島、11月上旬に沖縄で上演されます。続報は劇団公式サイトで随時発表予定です。

ままごとの新聞 第21号

ままごと新劇団員紹介

このたび、ままごとに2人の劇団員が加入しました。
これまでの柴作品に関わりを持つ、小山薫子と石倉来輝。
彼らは一体どんな人たち?
3つのアンケートに答える形で彼らが自己紹介します!

Q1. 初めて参加したままごと、あるいは柴幸男の公演
Q2. あなたにとって一番印象深いままごとの作品
Q3. あなたの座右の銘


◉ 小山薫子(おやま・かおるこ)
小山薫子

1995年生まれ、東京都出身。都立総合芸術高校舞台表現科で演劇を学ぶ。2018年に、多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科卒業。大学で柴幸男ゼミを履修。以後、大学内外で、柴幸男作品などに参加している。身体に興味があり、個人創作にも取り組んでいる。

A1.
2016年夏、瀬戸内国際芸術祭にてままごとが滞在制作を行っている時に、見学兼記録として付いて行きました。実際は、“ままごとさんと遊ぼうよ” でピアノ伴奏をしたり、喫茶ままごとのお手伝いをしました。

A2.
高校の演劇概論の授業で、『わが星』の冒頭を見ました。それが私にとって初めての現代演劇体験で、衝撃的でした。わが町も好きで、それとも重なる星の一生、直ぐに戯曲を読み感動したのを覚えています。

A3.
「難民として踊らなければ生きてる意味が無いよね」。最近友だちに言われゾクッとした言葉です。強い言葉ですが、何者でもない者として、何をするかを問われ、わからない未来バンザイって思います。


◉ 石倉来輝(いしくら・りき)
石倉来輝

1997年10月18日生まれ。東京都出身。2016年、都立総合芸術高校舞台表現科を卒業後、俳優として活動を始める。主な出演作に、SPAC『高き彼物』[演出:古舘寛治]、FUKAIPRODUCE羽衣×パルテノン多摩『愛いっぱいの愛を』、スイッチ総研、チェルフィッチュ『「三月の5日間」リクリエーション』など。

A1.
ミエユース 演劇ラボ2016 ままごと・まねごと「わたしたちは、息をしている」、ままごと×象の鼻テラス「Theater ZOU-NO- HANA 2015」

A2.
2015年に三鷹で観た、『わが星』の再々演です。終演後、放心状態で電車に揺られながら「この劇団に入りたい!」と思い、検索しまくったのですが、募集すらしていなくて落ち込んだのを覚えています。まさかこんな形で 実現するなんて、あの時の僕は思ってもいないと思います。

A3.
特に決めていません。そもそも座右の銘て何なのか、ちゃんと考えたこともありませんでした。自分が頑固だからか、飽き性だからか、まだ自分の大切にしたいモノを、自分の言葉で決める必要がわかりません。断片的なことばでは保持しているつもりですが、「これだ!」というようなことばに決めてしまうことで零れてしまういろいろや、固まってしまう自分を怖れてもいます。なので、これからも座右の銘は特に決めないことにしようと思います!最近ことあるごとに思い出すのは、小学校の卒業式で宣言した、「石倉来輝という名前で、世界を変えます!」です。

ままごとの新聞 第21号

それぞれの現場から

2018年春、端田新菜と大石将弘は『ツアー』以外の現場でも奮闘しました。
それぞれの現場からひと言、どうぞ!


端田新菜

 4月は、ままごと『ツアー』、5月は五反田団『うん、さようなら』、6月は山内雅子プロデュース『灼熱の巴里』に出演させていただきました。それぞれの作品ごとに、演劇的修行の要素が違っていて、ゴリゴリに幸福でした。先2作は子供を亡くした人の話で、あと1作には息子がプチ出演したので、ずっと息子のことを考える演劇生活でした。


大石将弘

 ナイロン100℃『睾丸』の稽古中です。ままごと在籍しながらナイロン100℃に入団して4年目、2作目の出演です。作品の全貌も、タイトルが示す意味も、自分の役の行く先も見えないまま稽古場に通っています。日々追加される台本を「え? そうだったの?」と思いながら読んでいるので、きっとお客さんも裏切られながら観る体験になるのではないかと。お楽しみに。

ままごとの新聞 第21号

編集後記

熊井玲

 春先は『ツアー』を中心に、同じ時間を過ごすことが多かったままごと。新たな劇団員が増え、「ままごとの新聞」もより新しく、充実した内容を目指していきます。次号は秋頃に発行予定です。お楽しみに!